テロに苦しむのは「被害者」だけではない。研究者が明かすダメージ

6月初旬、ロンドン橋でのテロ事件が起きた後、地元住民たちは自宅を開放し、見知らぬ人々を招き入れた。その2週間前、マンチェスターでテロが発生したときも、住民たちは空き部屋やベッド、ソファーを提供した。

善意の行動は、多くの人にとって悲惨な出来事に対する自然な反応だ。しかし、決してくじけないと表明する人たちがいる一方で、静かに苦しんでいる人たちもいる。それは、テロに巻き込まれた人々だけではない。

BuzzFeed Newsは、テロが生存者、さらには一般市民の心の健康に及ぼす影響を研究している心理学者たちに話を聞いた。

Daniel Leal-olivas / AFP=時事

テロの生存者たちも立ち直ることはできる

最も大きな打撃を受けているのは、テロに巻き込まれ、生き延びた人々だ。

テロの生存者たちは、たとえば不安を感じ、神経質になるとか、夜眠るのが難しい、望まない記憶や思考、イメージが突然現れるといった経験をしているかもしれない。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と言いたくなるような症状だが、臨床の現場では、重度の心的外傷を経験してから少なくとも1カ月は診断を下さない。

PTSDの治療を専門とする臨床心理学者・マシュー・ホエーリーは、「恐ろしい出来事に直面したら、相当な苦痛を経験するのは至って正常だ」と話す。「心配無用とは言いたくない。異常な体験をしたなら、そうした状態になるのは至って正常だ」

1カ月もすれば、望まない思考や症状が徐々に消えていき、普通の生活を送ることが可能になる人もいる。「われわれはストレスや喪失に慣れることができる。人はもともと驚異的な回復力を持つ。たとえ重度の心的外傷を経験しても、立ち直ることができるのだ」

ただし、すべての人に当てはまるわけではない。「論文によって数値は異なるが、(テロに)直接さらされた人の30~40%がPTSDになってもおかしくない」

PTSDの症状は次の4つに大別できる。

  • 出来事そのものの再体験(悪夢やフラッシュバックなど)。
  • 心的外傷を思い出すような物事の回避(現場に再び行くことを拒絶するなど)。
  • 信念や気分の変化(自分を責める、もっと何かできたのではないかと罪の意識を感じるなど)。
  • 常に警戒・緊張し、場合によっては睡眠や集中が難しくなる。

「人は通常、何かが起きて1カ月たったら、1カ月前の出来事として思い出す」とホエーリーは話す。「しかし、PTSD患者はしばしば、それが記憶なのか、再び実際に起こっているのかを区別できない。1カ月前の出来事を思い出すとき、同じことが再び起きているように感じてしまうのだ。これは本当につらいことだ」

Jon Super / AFP=時事

テロを経験していない人でも心理的な打撃を受ける

しかし、たとえテロの現場に居合わせたり、テロに遭った人が身近にいたりしなくても、心の健康に影響が及ぶことはある。

ホエーリーは2007年の論文の中で、テロが発生した直後は、一般市民も不安や気分の落ち込みを経験しているようだと指摘している。

「そのような経験をしている人の割合は、数週間でピークに達し、その後、急激に減少していく」とホエーリーは説明する。「おそらく1~2カ月以内には、元の割合に戻っているはずだ」

ウォーリック大学心理学部の学部長ロビン・グッドウィンも同様の結論を導き出している。グッドウィンの研究テーマは、テロによって人々の価値観や行動がどのように変化するかだ。

グッドウィンは2005年7月7日、ロンドン同時爆破テロが起きた後、英国全土の一般市民を対象に調査を行った。フランスでも同様の調査を行っている。具体的には、2015年1月にパリで風刺新聞「シャルリー・エブド」のオフィスが襲撃されたときと、11月にバタクラン劇場でテロが起きたときだ。

グッドウィンはBuzzFeed Newsの取材に対し、「皆さんが予想されるとおり、人々は安全性についてより懸念するようになる」と述べた。友人や家族を大切にする特性は心理学で「善意(benevolence)」と呼ばれるが、こうした特性を持つ人たちはテロ後、不安が増大する傾向にある。性別による違いも見られる。男性より女性の方がより心配する傾向にあるのだ。ただしグッドウィンは、「男性が心配しないというわけではない」と言い添える。

グッドウィンによれば、英国の研究では、ロンドンの中心部やロンドン以外で暮らす人々に比べ、ロンドン郊外に住む人々の不安のほうが大きかったという。その一因として、ロンドン郊外の人々は毎日の移動時間が長いことを挙げている。ロンドン同時爆破テロでは、公共交通機関が標的にされたからだ。ただし、ほかの要因が関係している可能性もある。「多くの人やものに囲まれているほうが、外からその空間に入っていくより脅威を感じないのかもしれない」

こうした不安は、人々の行動がテロ後に変化することを意味している可能性がある。身近な人にたびたび連絡をとるようになった人もいる。テロ直後に無事を確認するだけでなく、数カ月たっても連絡を続けていたようだ。市街地など、標的にされやすいと思う場所を避けるようになった人もいる。

Jack Taylor / Getty Images



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